シェルビーGT350(S550) VERUS ENGINEERING Ventusエアロ解説

RK-ONLINE / VERUS ENGINEERING FOR FORD MUSTANG SHELBY GT350 (S550)

ヴェルスエンジニアリング VENTUS AERO PACKAGE 1–3

Ventusパッケージは、米Verus Engineeringがフォード マスタング シェルビーGT350(S550)のために開発した3段階のエアロキットです。CFD解析・風洞実験・プロドライバーによるサーキット実走を重ねて設計されており、各部品の狙いと効果はすべて解析画像とグラフで公開されています。

このページでは、メーカー発行の技術資料(2021年10月版)に掲載されたデータと解析画像を、日本のユーザー向けに読み解いていきます。

フロントスプリッター単体の空力効率(揚抗比 L/D)10
UCWリアウイングの翼角調整範囲0〜15°
公表グラフの基準ウイング翼角
CFDソルバーOpenFOAM v1912
解析ヨー角(完全な直進を前提にしない)0.5°
Ventus 3を装着したシェルビーGT350のCFDストリームライン可視化
CFDVentus 3装着状態のGT350解析モデル。スプリッターからUCWウイングまで、車体まわりの流れ(ストリームライン)を可視化したものです。
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パッケージ構成

VENTUS 1

抵抗を減らして始める

ストリート中心の方向け。外観の変化を最小限に、純正比でドラッグを低減しつつダウンフォースを少し上乗せする構成です。純正ディフューザーとリアウイングを活かしたまま働きます。

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構成部品

  • ボルテックスジェネレーター
  • ディフューザーストレーキ(純正ディフューザー用)
  • 床下パネル(アンダーボディパネル)
  • フェンダーライナー
  • ターニングベーン
Ventus 1のフロントビュー。ルーフ後端のボルテックスジェネレーターをマゼンタ表示
FIG.03Aフロントビュー。外装で目に付くのはルーフ後端の小さなボルテックスジェネレーター(マゼンタ)程度で、見た目はほぼ純正のままです。
Ventus 1の床下ビュー。床下パネルを青色表示
FIG.03B床下ビュー。青い部分が床下パネル。フェンダーライナーやストレーキと合わせ、床下中心の構成であることが分かります。

VENTUS 2

床下を本格化する

街乗りと走行会を一台でこなす方向け。純正ディフューザー+ストレーキに代えて専用設計のVerusディフューザーを装着し、ダイブプレーンで前まわりの流れも整えます。ドラッグは純正よりわずかに低いまま、ダウンフォースがしっかり増えます。

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構成部品

  • Ventus 1 の全部品(ストレーキを除く)
  • Verusリアディフューザー
  • ダイブプレーン(カナード)
  • ターニングベーン

※ディフューザーストレーキはVerusディフューザーに置き換わります。

Ventus 2のフロントビュー。ダイブプレーンを青緑色表示
FIG.04Aフロントビュー。バンパー両脇に加わった青緑のパーツがダイブプレーンです。
Ventus 2の床下ビュー。床下パネルとVerusディフューザーをハイライト表示
FIG.04B床下ビュー。床下パネル(青)に加え、リアに専用設計のVerusディフューザー(緑)が入ります。

VENTUS 3

翼で仕上げる

競技・タイムアタック志向の方向け。フロントスプリッターとUCWリアウイングが加わる最大構成です。ドラッグの増加はわずかに抑えたまま、ダウンフォースを大幅に積み増します。ウイング翼角8°で空力バランスはほぼ純正相当です。

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構成部品

  • Ventus 2 の全部品
  • フロントスプリッター
  • UCWリアウイング
  • ターニングベーン
Ventus 3のフロントビュー。UCWウイングとスプリッターをハイライト表示
FIG.05Aフロントビュー。UCWリアウイング(緑)とスプリッター、ダイブプレーンが加わり、前後で荷重を作る最大構成になります。
Ventus 3の床下ビュー。スプリッターと床下パネル、ディフューザーをハイライト表示
FIG.05B床下ビュー。前端のスプリッター下面という大きな負圧面が加わり、床下パネル、ディフューザーへと流れがつながります。
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構成一覧

部品 VENTUS 1 VENTUS 2 VENTUS 3
ボルテックスジェネレーター
床下パネル(アンダーボディパネル)
フェンダーライナー
ディフューザーストレーキ(純正ディフューザー用)
Verusリアディフューザー
ダイブプレーン(カナード)
フロントスプリッター
UCWリアウイング
ターニングベーン OPTION OPTION OPTION

各部品は単品でも装着できますが、前後の空力バランスを保つため、メーカーはパッケージ単位での導入を最良としています。Ventus 2以降はストレーキがVerusディフューザーに置き換わる点にご注意ください。

03

データで見る効果

下のグラフは、純正(Stock)と各パッケージのドラッグ(上段)とダウンフォース(下段)を対気速度ごとに示したものです。空力の力は速度の2乗に比例して増えるため、メーカーは一点の数値ではなくグラフで公開しています。

注目してほしいのは上段のVentus 1(青線)。純正の黒線より下、つまり純正よりも空気抵抗が小さいことを示します。床下の整流とボルテックスジェネレーターだけで構成されたパッケージならではの特性です。

Ventus 2は純正よりわずかに低いドラッグのままダウンフォースを積み増し、空力バランスは純正より前寄りに。Ventus 3はドラッグ増をわずかに抑えつつダウンフォースを大幅に増やし、翼角8°ならバランスはほぼ純正相当に収まります。

GT350のVentusパッケージ別ドラッグとダウンフォースの速度特性グラフ
FIG.02パッケージ別のドラッグ(上)とダウンフォース(下)。横軸は対気速度[mph]、縦軸は力[lbs]。UCWウイングは翼角8°の状態。1 lbs≒0.45kg、100mph≒161km/h。
パッケージ ドラッグ(純正比) ダウンフォース(純正比)
VENTUS 1 低減 微増
VENTUS 2 わずかに低減 増加(バランス前寄り)
VENTUS 3 わずかに増加 大幅増(8°で純正同等バランス)

技術資料の要約(定性表現は資料の記述に基づきます)。

ウイング翼角でどれだけ変わるか — UCWリアウイングは0〜15°の範囲で翼角を調整できます。下のグラフはウイング単体の風速別ダウンフォース/ドラッグで、走るステージに合わせてリアの荷重を増減させる際の目安になります。

UCWウイングの翼角別ダウンフォースとドラッグのグラフ
FIG.06UCWウイング単体の翼角別データ(0〜15°)。マーカー付きの太線がダウンフォース、細線がドラッグ。翼角を立ててもドラッグの増加はゆるやかです。
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部品ごとの解説

4.1フェンダーライナーV1/V2/V3+

純正状態のフェンダー内には、フォードが開けたままにした開口部が残っています。ここを塞ぎつつ、空気をフェンダーの横と下へ抜くよう導くのがこのライナーです。開口部由来のドラッグが減るだけでなく、前まわりの空力部品が働きやすいきれいな流れを作ります。地味ですが、Ventus 1のドラッグ低減を支える部品です。

フェンダーライナー単品のCADレンダリング2方向
FIG.07フェンダーライナー単品のCADビュー。フェンダー内の開口部を覆う立体形状で、空気の抜け道をコントロールします。
4.2床下パネル&ターニングベーンV1/V2/V3+

マスタングの床下に残る開口部を塞ぐパネルです。開口部は乱れた流れの発生源で、そのままではドラッグを生みます。パネルで床下を平滑にすることで抵抗を減らします。

オプションのターニングベーン(整流板)は、床下の流れをリアディフューザーへ導くための部品です。わずかなドラッグ増と引き換えにダウンフォースが増えるため、「抵抗よりダウンフォース優先」の場合に選択します。

床下パネル装着状態の床下圧力分布CFD画像
FIG.08床下のCpZ(上下方向圧力)分布。パネルで平滑化された床下が広く青(=ダウンフォース発生側)に染まっています。前輪後方にターニングベーンが見えます。
4.3ディフューザーストレーキV1+

純正ディフューザーの性能を引き上げる整流フィンです。外側の2枚はタイヤが作る乱流(タイヤウェイク)がディフューザーに入り込むのを防ぎ、内側のフィンはディフューザー面の流れそのものを整えます。解析では、ストレーキの追加によりディフューザー中央トンネルの圧力が下がり、ダウンフォースが最も増えることが確認されています。

リア下面の圧力分布を後方から見たCFD画像
FIG.09後方下側から見た解析ビュー。ストレーキで整流されたディフューザーまわりの圧力分布を示します(青系=低圧)。
4.4ボルテックスジェネレーターV1/V2/V3+

ルーフ後端に並ぶ小さなフィンです。役割は流れの剥離を遅らせること。リアデッキ上の流れが付着を保つことでドラッグが減り、さらに純正リアウイングに当たる流れの質が上がるため、ウイングの働きも向上します。解析では、装着時にウイング後方のウェイク(渦領域)が純正より小さくなる=抵抗が減ることが示されています。

リアデッキ表面の流れを可視化したLICプロット
FIG.10リアまわりの表面流(LICプロット)。ボルテックスジェネレーター後方で流れの筋が整い、リアガラス〜デッキ上の付着が保たれている様子が読み取れます。
4.5ダイブプレーン(カナード)V2/V3+

板そのものが受ける力(下面低圧・上面高圧)で生まれるダウンフォースは一部にすぎません。本来の仕事は車体まわりの流れの制御です。意図的に作り出した渦がフェンダー内の空気を引き抜き、ボディに働くリフトを減らします。位置と角度が性能を左右するため、専用の位置決めテンプレートが用意されています。

ダイブプレーン周りの気流を可視化したCFD画像
FIG.11フロントまわりのストリームライン。色は流速(暖色=速い)。ダイブプレーンが作った渦がフェンダー横〜床下へと空気を導いています。
4.6VerusリアディフューザーV2/V3+

市販車の空気抵抗の多くは、車体後方にできる低圧の渦領域(ウェイク)が車を後ろへ引っ張る「圧力抵抗」です。ディフューザーは床下の空気を減速させながら後方へ導き、この渦を床下からの空気で埋めます。結果、ダウンフォース(=安定性)を得ながらドラッグも下げられる。じつはストリートカーにこそ向いた部品です。

形状はメインスロートに加え、Verus製ディフューザーの代名詞であるセカンドスロートを持つ2段構成。純正ディフューザーに付いていたダクト類もそのまま移設できるよう設計されています。

床下全体の圧力分布を示すCFD画像
FIG.12床下のCpZ分布。ディフューザーへ向かう床下後半の流れが低圧を保ち、リアの荷重を作っています。
車体後方のウェイク領域を示す側面CFD画像
FIG.13側面から見たウェイク領域の可視化。ディフューザーが床下の空気を後方の渦領域へ送り込み、これを埋めることで全体のドラッグが下がります。
4.7フロントスプリッターV3+

前まわりの主役です。平らな板に見えますが、路面との間で発生するグラウンドエフェクトにより大きなフロントダウンフォースを生みます。解析はスプリッター単体ではなく、エアダムまで含めた実装状態で実施。エアダム前面の高圧と下面の低圧の組み合わせで、アセンブリ全体の空力効率は揚抗比(L/D)10に達します。スプリッターは車の空力部品の中でも特に効率の良いダウンフォース源です。

スプリッター装着車の床下前方圧力分布CFD画像
FIG.14床下のCpZ分布。前端のスプリッター下面が濃い青=強いダウンフォース発生域になっているのが分かります。
4.8UCWリアウイングV3+

GT350用に「より大きなダウンフォース」を狙って開発されたウイングです。翼型はCFDで設計・最適化したのち風洞で熟成させ、最終確認はサーキット実走で行われました。仕事の大半は下面(負圧面)が担っており、資料の解析では下面のCpが−1以下まで下がる一方、上面は+0.6止まり。つまり下面が上面よりはるかに強く車体を引き下げています。

UCWウイングを後方から見た圧力分布CFD画像
FIG.15後方から見たCpZ分布。ウイングが濃い色=強い負圧域となっており、ここがリアのダウンフォースの主発生源です。
UCWウイングを前上方から見た圧力分布CFD画像
FIG.16前上方から見たCpZ分布。ウイング上面は赤(=押し下げる高圧側)。上下面の圧力差がダウンフォースの正体です。
翼角 0〜15°調整式(グラフ基準8°)
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CFD画像の読み方

本ページやメーカー資料に登場する解析画像は、色の意味が分かると一気に読めるようになります。主な可視化手法をまとめました。

STREAMLINEストリームライン(流線)

空気の通り道を線で表したもの。色は流速を示し、赤系が速く、青系が遅い流れです。FIG.11のように、部品が流れをどこへ導いているかを読むのに使います。

CpZ上下方向の圧力分布

車体表面のどこがダウンフォース/リフトを生んでいるかを示します。青=ダウンフォース発生域、赤=リフト発生域。FIG.14の「青く染まった面」が仕事をしている場所です。

CpX前後方向の圧力分布

ドラッグ(抵抗)がどこで発生しているかの可視化。赤が抵抗を生む場所、青は逆に車を前へ押す(推力側の)場所を表します。

CpT総圧(気流のエネルギー)

気流が持つエネルギーの残量。車体を通過してエネルギーを失った空気の行き先や、後方のウェイク領域を追うのに使います(FIG.13)。

LIC表面流の可視化

表面を流れる「オイルフロー」を計算で再現したもの。実車のフロービズ試験と対応させやすく、剥離や付着の様子を読むのに使います(FIG.10)。

Cp圧力係数

大気圧を0とした相対圧力。0より下が低圧(吸われる側)、上が高圧(押される側)です。無次元数なので速度が変わっても比較できます。

WALL SHEAR壁面せん断応力

表面に働く空気の摩擦力。値の変化が急な場所や小さい場所から、剥離域や流れの急変を見つけるのに使います。

POINTSポイント

空力係数の増減を表す単位で、1ポイント=係数0.001。Cd(抗力係数)やCl(揚力係数)の変化量を示すときに使われます。

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開発の裏付け

「直進」を前提にしないCFD

解析には有限体積法CFDのOpenFOAM v1912(SIMPLE法、K-Omega SST乱流モデル)を使用。現実の走行でほぼ起こらない完全な直進気流ではなく、0.5°のヨー角を基本条件としてフルカーを解析しています。ラジエーター等の冷却系はダルシー・フォルヒハイマー係数を与えた多孔質流体としてモデル化され、エンジンルームを通る流れまで再現されています。

風洞と実走で確認してから製品化

CFDで設計した形状は風洞実験で熟成させ、最終的にプロドライバーによるサーキット実走で確認。過去の開発で実証済みの設計手法も投入されています。仕上げは純正並みのフィット感を目指しており、エンジンに手を入れないため純正保証もそのまま残ります。

単品でも、パッケージなら最良

各部品は単品装着も可能ですが、ラップタイム短縮という目的に対して最も効果的なのはパッケージ単位での装着です。前後の空力バランスを崩さずにダウンフォースを積み増せるよう、構成が設計されています。

どのパッケージにするか迷ったら

走行ステージ(街乗り中心か、走行会か、タイムアタックか)と現在の仕様をお知らせいただければ、上記のデータをもとに構成をご提案します。単品からの段階的な導入のご相談も可能です。

適合:フォード マスタング シェルビーGT350(S550)。本ページの図版・数値はVerus Engineering発行「Performance of Verus Engineering Ventus Packages — S550 Ford Mustang Shelby GT350」(2021年10月22日版)より。解説は同資料に基づきRK-ONLINEが構成・翻訳したものです。