BMW M4(G82) VERUS ENGINEERING Ventusエアロ解説

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ヴェルスエンジニアリング VENTUS AERO PACKAGE 1–2

Ventusパッケージは、米Verus EngineeringがBMW M4(G82)のために開発した2段階のエアロキットです。実車の3Dスキャンから起こしたCFD解析、風洞実験、プロドライバーによる実走テストを重ねて設計されており、各部品の効果は数値で公開されています。

G82版の特徴は、リアウイングを高効率のUCWと大容量のV1Xから選べること。同じ土台の上で「効率重視」と「絶対量重視」を選び分けられる構成です。このページでは、メーカー発行の技術資料(2025年5月版)に掲載されたデータと解析画像を、日本のユーザー向けに読み解いていきます。

フードルーバーによる前バランス改善(UCW 5°時)35% → 45%
V1X(翼角2°)とUCW(翼角12°)の比較:同等ダウンフォースでドラッグ−1.5%
V1Xウイングの標準幅(特注で最大1950mmまで)1750mm
解析モデルのスキャン誤差(最大部)1mm未満
CFDソルバーOpenFOAM v2106
Verus Engineeringのエアロパーツをフル装着したBMW M4(G82)開発車両
PHOTOサーキットテスト中のVerus Engineering開発車両(M4 G82)。スプリッター、フードルーバー、スワンネックマウントのリアウイングを装着しています。
01

パッケージ構成

VENTUS 1

翼から始める

サーキットを走り始めた方向け。ダイブプレーンとUCWウイングで前後に荷重を作る基本構成です。前バランス改善のため、フードルーバーの追加をメーカーは推奨しています。

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構成部品

  • ダイブプレーン(カナード)
  • UCWリアウイング
  • カーボンフードルーバー(推奨)

※フードルーバーはVentus 1では推奨オプションです(ダウンフォース増と空力バランス改善)。

Ventus 1のフロントビュー。装着部品を青色表示
FIG.04Aフロントビュー。バンパー両脇のダイブプレーン、左右一対のフードルーバー、UCWウイングが青で示されています。
Ventus 1のリアビュー。装着部品を青色表示
FIG.04Bリアビュー。スワンネックマウントのUCWウイング。床下やロッカー部には手を入れない、外装中心の構成です。

VENTUS 2

前後で押さえ込む

タイムアタック・競技志向の方向け。スプリッターとサイドスプリッターで前を、ウイングで後ろを押さえる最大構成です。ウイングはUCW(効率重視)とV1X(大容量)から選択できます。

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構成部品

  • ダイブプレーン(カナード)
  • UCWまたはV1Xリアウイング(選択)
  • フロントスプリッター(エンドプレート付)
  • サイドスプリッター
  • カーボンフードルーバー
Ventus 2(UCW仕様)のフロントビュー。装着部品を青色表示
FIG.05AUCW仕様のフロントビュー。エンドプレート付スプリッターとサイドスプリッターが加わり、前まわりの構成が一気に充実します。
Ventus 2(V1X仕様)のリアビュー。装着部品を青色表示
FIG.05BV1X仕様のリアビュー。UCWより大きな翼と、スリット入りエンドプレートが特徴です。
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構成一覧

部品 VENTUS 1 VENTUS 2
ダイブプレーン(カナード)
UCWリアウイング どちらか選択
V1Xリアウイング どちらか選択
カーボンフードルーバー 推奨OPTION
フロントスプリッター(エンドプレート付)
サイドスプリッター

各部品は単品でも装着できますが、前後の空力バランスを崩さないため、メーカーはパッケージ単位での導入を推奨しています。ウイング翼角の調整範囲はVentus 1が0°(ルーバー無)〜5°(ルーバー付)、Ventus 2がUCWで0°〜12°、V1Xで2°〜12°です。

03

データで見る効果

下のグラフは、各パッケージが純正(OEM)と比べてどれだけダウンフォース(上段)とドラッグ(下段)を増減させるかを、対気速度ごとに示したものです。空力の力は速度の2乗に比例して増えるため、曲線は右肩上がりのカーブを描きます。

帯の幅はウイング翼角(AoA)の調整範囲を表します。翼角を動かすことで、ドライバーの好みに合わせて空力バランスを微調整できるということです。3本の帯は下から順にVentus 1(青)、Ventus 2 UCW(紫)、Ventus 2 V1X(えんじ)。V1X仕様はUCW仕様の上限を大きく超えるダウンフォースまで届きます。

Ventusパッケージ別のダウンフォースとドラッグの速度特性グラフ
FIG.02純正比のダウンフォース増分(上)とドラッグ増分(下)。青帯=Ventus 1(0〜5°)、紫帯=Ventus 2 UCW(0〜12°)、えんじ帯=Ventus 2 V1X(2〜12°)。横軸は対気速度[mph]、縦軸は力[lbs]。1 lbs≒0.45kg、100mph≒161km/h。

UCWとV1X、どちらを選ぶか — 資料には興味深い比較が載っています。V1Xを翼角わずか2°で使うと、UCWを目一杯立てた12°と同じダウンフォースを、1.5%少ないドラッグ・同じ前後バランスで発生できるのです。低い翼角から同じ仕事ができる分、V1Xには伸びしろが残ります(時速193km=120mph時の比較)。

項目(120mph時) UCW @12° V1X @2°
コード長(翼弦) 250mm 300mm +20%
ダウンフォース 668 lbs 669 lbs +0.1%
ドラッグ 482 lbs 475 lbs −1.5%
バランス(前/後) 36.8 / 63.2 37.0 / 63.0 −0.5%

Ventus 2構成でのUCW(12°)とV1X(2°)の比較。数値はメーカー資料より。

Ventus 2パッケージの前後空力バランス比較チャート
FIG.03Ventus 2の前後空力バランス(えんじ=フロント、青=リア)。UCW 0°でフロント57%、UCW 12°で37%、V1X 1.9°(ガーニー無)で37%、V1X 12°(ガーニー付)で22%。翼角の設定でバランスをこれだけ動かせます。
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部品ごとの解説

4.1ダイブプレーン(カナード)V1/V2+

最低地上高を変えずにフロントのダウンフォースを少し足したい、という場合に向く部品です。板そのものが空気を受けて発生する力は限られており(上面が高圧・下面が低圧)、本来の仕事は車体まわりの流れを整えること。意図的に作り出した渦がフェンダー内の空気を抜き、ボディに働くリフトを減らします。

M4前まわりの気流を可視化したCFD画像
FIG.06前まわりのストリームライン(色は流速)。バンパー脇を通過した流れがダイブプレーンで方向を変えられ、フェンダーまわりの空気を後方へ引き抜いていく様子です。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 位置決めテンプレート付属
4.2フロントスプリッター(エンドプレート付)V2+

前まわりの主役です。上面に載る高圧が板を押し下げ、下面はウイングと同じく負圧で車体を引き下げます。発生源としては下面の仕事が上回ります。解析はスプリッター単体ではなく、エンドプレートまで含めた実装状態で行われています。

G8X系Mは下向きのオイルクーラーを持つため、スプリッターには後方排出ダクトを設けて冷却風の通り道を確保。M2(G87)用と異なり、G82用はダクトの出口をスプリッター上面側に設けることで、スプリッター性能への影響を断っています。高負荷走行が続く場面(特に夏場)は油温のモニタリングを推奨します。

スプリッターと床下の気流を下から見たCFD画像
FIG.07床下を斜め下から見たストリームライン。スプリッターを通った流れが床下全体へ導かれ、後方へ抜けていく様子が読み取れます。
素材 カーボンポリウィーブ(モータースポーツグレード複合材。通常のカーボンが衝撃で割れる場面でも破断しにくい)
4.3サイドスプリッターV2+

車体上面側の高圧な空気が側面から床下へ回り込むのを抑える部品です。直進時だけでなく、旋回中・高ヨー角時の床下気流を整えることを重視して形状が決められています。増えるダウンフォースは車体中央付近に集中するため、前後バランスへの影響はわずかです。

車体表面の圧力分布を示すCFD画像
FIG.08車体表面の圧力分布。グリルやスプリッター上面などのよどみ部が赤(高圧)、ボディサイドやホイールアーチまわりが青(低圧)。この上下面の圧力差が側面から床下へ空気を回り込ませるため、サイドスプリッターで堰き止めます。
素材 カーボンポリウィーブ 取付 純正サイドスカート部へ付属ハードウェアでボルト留め
4.4UCWリアウイングV1/V2+

リアに大きなダウンフォースが欲しい場合の核となる部品です。翼型はCFDで設計したのち風洞で熟成させたもので、仕事の大半は下面(負圧面)が担います。上面もダウンフォースを生みますが、下面ほどではありません。

トランクマウントは6061アルミ削り出しで、下面は純正トランクリッドの曲面に合わせて加工。ヒンジ側の受けとステンレス製スタンドオフでトランクリッドを挟み込む構造のため、パネルの変形を防ぎながら高い剛性を確保しています。メーカー自身が「これまで作ったUCWキットの中で最も剛性が高い部類」と述べる仕上がりです。

M4側面の流速分布とストリームラインを示すCFD画像
FIG.09側面から見た流速場。ルーフ上で加速した流れ(赤)がウイングに流れ込み、車体後方で下向きに整えられています。
UCWウイングの翼角別ダウンフォース・ドラッグ特性グラフ
FIG.11AUCW単体の翼角別特性(0〜15°)。太線がダウンフォース、細線がドラッグ。翼角を立てるほど荷重は増えますが、ドラッグの増加は緩やかです。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) マウント 6061削り出しトランクマウント+ステンレススタンドオフ
4.5V1XリアウイングV2+

UCWと同じ設計思想のまま、さらに大きなダウンフォース容量を持たせたウイングです。翼型はCFDの随伴(アジョイント)最適化手法で追い込み、風洞で相関を確認。エンドプレートに設けられたスリットが翼端渦のエネルギーを弱め、圧力抵抗を減らします。スワンネックマウントの採用で下面の気流が乱されず、負圧面をフルに使えることも効率に寄与しています。

ウイング幅は標準1750mm。特注で最大1950mmまで指定できます。

V1Xウイング装着車側面の流速場を示すCFD画像
FIG.10V1X装着状態の流速場。ウイング後方の減速域(濃紺)が大きく、翼が強く仕事をしていることが分かります。
V1Xウイングの翼角別ダウンフォース・ドラッグ特性グラフ
FIG.11BV1X単体の翼角別特性(0〜14°、1950mm幅時)。幅を50mm狭めるごとにダウンフォース約5.3%・ドラッグ約2.8%ずつ減少します。UCW(FIG.11A)と縦軸のスケールが異なる点に注意。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) マウント スワンネック 標準1750mm/特注〜1950mm
4.6カーボンフードルーバーV1推奨/V2+

エンジンルームの熱と圧力をボンネット上へ抜く部品です。冷却系の効率と補機類の寿命を高めると同時に、エンジンルーム内の圧力を逃がすことでフロントのダウンフォースを追加。空力バランスはフロント35%から45%へと大きく改善します(UCW翼角5°時)。

開口部は、ボンネット裏の構造をほとんど切らずに済み、かつフード上の圧力が低い(=よく抜ける)場所を選んで配置。3Dスキャンデータから起こしているため、フードの曲面に純正のようにフィットします。実走テストでもエンジンルーム温度の大幅な低下が確認されています。

フードルーバーから抜ける気流を可視化したCFD画像
FIG.12グリルから入った空気(青系=減速した流れ)が左右のルーバーからボンネット上へ抜け、ルーフ方向へ流れていく様子です。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 位置決めテンプレート付属
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CFD画像の読み方

本ページやメーカー資料に登場する解析画像は、色の意味が分かると一気に読めるようになります。主な可視化手法をまとめました。

STREAMLINEストリームライン(流線)

空気の通り道を線で表したもの。色は流速を示し、赤系が速く、青系が遅い流れです。FIG.06・07のように、部品が流れをどこへ導いているかを読むのに使います。

Cp圧力係数

大気圧を0とした相対圧力。0より下が低圧(吸われる側)、上が高圧(押される側)です。FIG.08のような表面の圧力分布図では、赤が高圧・青が低圧を表します。

CpZ上下方向の圧力分布

車体表面のどこがダウンフォース/リフトを生んでいるかを示します。青=ダウンフォース発生域、赤=リフト発生域。「青く染まった面」が仕事をしている場所です。

CpX前後方向の圧力分布

ドラッグ(抵抗)がどこで発生しているかの可視化。赤が抵抗を生む場所、青は逆に車を前へ押す(推力側の)場所を表します。

CpT総圧(気流のエネルギー)

気流が持つエネルギーの残量。エンジンルームや車体を通過してエネルギーを失った空気の行き先を追うのに使います。

POINTSポイント

空力係数の増減を表す単位で、1ポイント=係数0.001。CdやClの変化量を語るときに使われます。

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開発の裏付け

実車スキャンから作られた解析モデル

解析は入力が悪ければ結果も悪くなります。VerusはM4の実車を自社で3Dスキャンし、誤差が最も大きい箇所でも1mm未満というCADモデルを製作。貫通ダクトやラジエーターダクトまで解析モデルに含め、精度を高めています。

3DスキャンデータとCADモデルの照合画像
FIG.13スキャンデータ(青)とCADモデル(グレー)の重ね合わせ。青とグレーがまだらに見えるのは両者の差がごく小さい証拠です。

「直進」を前提にしないCFD

解析には有限体積法CFDのOpenFOAM v2106(SIMPLE法、K-Omega SST乱流モデル)を使用。現実の走行でほぼ起こらない完全な直進気流ではなく、0.5°のヨー角を基本条件とし、複数の車高・ヨーレートで旋回状態も解析しています。フロントに並ぶ5つの冷却器はすべて多孔質流体としてモデル化されています。

風洞と実走で確認してから製品化

CFDで設計した形状は風洞実験の知見と過去の実績設計で熟成させ、最終的にプロドライバーのサーキット実走で確認。仕上げは純正並みのフィット感を目指しており、エンジンに手を入れないため純正保証もそのまま残ります。

どのパッケージにするか迷ったら

走行ステージ(街乗り中心か、走行会か、タイムアタックか)と現在の仕様をお知らせいただければ、上記のデータをもとに構成をご提案します。UCW/V1Xの選び分けや、単品からの段階的な導入のご相談も可能です。

適合:BMW M4(G82)。本ページの図版・数値はVerus Engineering発行「Performance of Verus Engineering Ventus Packages — BMW G82 M4 Platform」(2025年5月21日)より。解説は同資料に基づきRK-ONLINEが構成・翻訳したものです。