ポルシェ 911 GT3(992) VERUS ENGINEERING Ventusエアロ解説

RK-ONLINE / VERUS ENGINEERING FOR PORSCHE 911 GT3 (992)

ヴェルスエンジニアリング VENTUS AERO PACKAGE 1–2

Ventusパッケージは、米Verus Engineeringがポルシェ911 GT3(992)のために開発した2段階のエアロキットです。実車の3Dスキャンから起こしたCFD解析、風洞実験、プロドライバーによる実走テストを重ねて設計されており、Ventus 1は純正ウイングを活かしたまま、Ventus 2はUCWウイングとスプリッターで前後の荷重を大きく引き上げます。

このページでは、メーカー発行の技術資料(2022年11月版)に掲載されたデータと解析画像を、日本のユーザー向けに読み解いていきます。

フロントスプリッターの空力効率(L/D)14.5
UCWウイングの翼角調整幅(資料掲載レンジ)6°〜12°
強化マウントによる純正ウイングの追加翼角+4°
UCWウイングの圧力係数(上面/下面)+0.7以下/−1未満
CADモデルと実車スキャンの誤差1mm未満
CFD解析中のポルシェ911 GT3(992)。車体上を流れるストリームラインを可視化
FIG.01CFD解析中の992 GT3(Ventus 2想定)。ボンネットのラジエーター出口から抜けた流れがルーフを越え、リアウイングへ届く様子です。
01

パッケージ構成

VENTUS 1

純正ウイングを目覚めさせる

純正の見た目とバランスを保ちたい方向け。削り出しの強化マウントで純正ウイングの翼角範囲を拡大し、ダイブプレーンとガーニーでフロントの荷重と冷却を補います。

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構成部品

  • デュアルダイブプレーン(カナード)
  • ラジエーターアウトレットガーニー
  • 強化ウイングマウント(純正ウイング用)
Ventus 1のフロントビュー。ダイブプレーンとガーニー、ウイングマウントを青色表示
FIG.03Aフロントビュー。青い部分がダイブプレーン、ボンネット開口部のガーニー、そしてウイング付け根の強化マウントです。
Ventus 1のトップビュー。装着部品を青色表示
FIG.03Bトップビュー。ウイング本体は純正のまま。外観の変化が小さい構成であることが分かります。

VENTUS 2

前後に翼を持つ

サーキットでのタイム短縮を狙う方向け。フロントにスプリッター、リアに純正アップライトを流用するUCWウイングを追加し、車両全体のダウンフォースを大きく積み増します。

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構成部品

  • デュアルダイブプレーン(カナード)
  • ラジエーターアウトレットガーニー
  • フロントスプリッター
  • UCWリアウイング(純正アップライト使用)
Ventus 2のフロントビュー。スプリッターとUCWウイングを青色表示
FIG.04Aフロントビュー。スプリッターとUCWウイングが加わり、前後で荷重を作る構成になります。
Ventus 2のトップビュー。UCWウイングとスプリッターを青色表示
FIG.04Bトップビュー。大型のUCWウイングが純正アップライトの位置にそのまま載ることが分かります。
02

構成一覧

部品 VENTUS 1 VENTUS 2
デュアルダイブプレーン(カナード)
ラジエーターアウトレットガーニー
強化ウイングマウント(純正ウイング用)
フロントスプリッター
UCWリアウイング(純正アップライト使用)

各部品は単品でも装着できますが、前後の空力バランスを崩さないため、メーカーはパッケージ単位での導入を推奨しています。

03

データで見る効果

下のグラフは、純正(Stock)・Ventus 1・Ventus 2それぞれのダウンフォース(上段)とドラッグ(下段)を、対気速度ごとに示したものです。空力の力は速度の2乗に比例して増えるため、曲線は右肩上がりのカーブを描きます。

各帯の幅はウイング角の調整範囲を表します。Ventus 1の青い帯は純正ウイングを「純正角〜+4°」で動かした場合、Ventus 2の赤い帯はUCWウイングを「6°〜12°」で動かした場合の変化です。翼角の調整によって、ドライバーの好みに合わせた空力バランスに仕立てられます。

もともと空力性能の高い992 GT3ですが、Ventus 2は全域で純正を大きく上回り、高速域ではその差が数百lbs(百数十kg)級まで開きます。ドラッグの増加は下段のとおり、ダウンフォースの伸びに比べて小幅です。

992 GT3のVentusパッケージ別ダウンフォースとドラッグの速度特性グラフ
FIG.02仕様別のダウンフォース(上)とドラッグ(下)。横軸は対気速度[mph]、縦軸は力[lbs]。1 lbs≒0.45kg、100mph≒161km/h。
グラフの帯 下限 上限
Ventus 1(純正ウイング+強化マウント) 純正角 +4°
Ventus 2(UCWウイング) 12°

帯の意味(ウイング翼角の設定範囲)。

04

部品ごとの解説

4.1ダイブプレーン(カナード)V1/V2+

最低地上高を変えずにフロントのダウンフォースを少し足したい、という場合に向く部品です。板そのものが空気を受けて発生する力は限られており(上面が高圧、下面が低圧)、本来の仕事は車体まわりの流れを整えること。意図的に作り出した渦がフェンダー内の空気を抜き、ボディに働くリフトを減らします。

ダイブプレーン周りの気流を可視化したCFD画像
FIG.05ダイブプレーンを通過する気流(ストリームライン)と車体表面の圧力分布。プレーンで方向を変えられた流れがフロントタイヤ後方へ流れていきます。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 位置決めテンプレート+両面テープ
4.2ラジエーターアウトレットガーニーV1/V2+

ボンネットのラジエーター出口に立てる小さなフラップです。ガーニーの前方に高圧、後方に低圧を作ることでダクト内の流量が増え、それがそのままラジエーターを通る風量の増加につながります。同時にフロントのダウンフォースがわずかに増え、空力バランスを前寄りに動かせる——冷却と空力を同時に稼ぐ、GT3らしい部品です。

ガーニー装着状態の表面圧力を解析した比較CFD画像
FIG.06中央で塗り分けた比較図。左半分が表面圧力の解析結果で、ラジエーター出口部に暖色(高圧)が発生しているのが分かります。右半分は形状確認用の表示です。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 ボディラインに合わせて両面テープ+テンプレート
4.3強化ウイングマウント(純正ウイング用)V1+

純正ウイングの翼角範囲を広げる、6061アルミ削り出しのマウントです。純正マウントと置き換えるだけで、ハードウェアはすべて純正を流用。増やした翼角での性能向上はCFDで検証済みです。仕上げはテクスチャ調パウダーコートで、機能部品ながら質感も純正然としています。

リアウイング周辺の気流を可視化したCFD画像
FIG.07ルーフからリアへ流れ下りる気流(ストリームライン)。純正ウイングはこの流れの中で働いており、翼角を最適化する価値がある場所だと分かります。
素材 6061アルミ削り出し(パウダーコート) 取付 純正マウントと交換・純正ハードウェア使用
4.4フロントスプリッターV2+

フロントのダウンフォースを大きく増やしたい場合の主役です。効率(L/D:揚抗比)は14.5と、空力デバイスとして非常に優秀。上面に載る高圧が板を押し下げ、仕事の大半は負圧の下面が担います。下面の形状は純正のスプリッターディフューザーへ空気を導くよう設計されており、解析はアセンブリ全体で行われています。取付はシャシー各部への固定のみで、切削加工は不要です。

素材はモータースポーツグレードのカーボンポリウィーブ。剛性を保ちつつ耐摩耗性に優れ、通常のカーボンが衝撃で割れるような場面でも破損しにくい、スプリッターに最適の複合材です。

床下の圧力分布を示すCFD画像。スプリッター付近が青
FIG.08床下の圧力分布。前端のスプリッター下面とその後方が青=低圧域となり、フロントタイヤ前で強いダウンフォースを発生しています。
素材 カーボンポリウィーブ 取付 シャシー複数点に固定・加工不要
4.5UCWリアウイングV2+

リアに大きなダウンフォースが欲しい場合の選択肢です。翼型はCFDで設計したのち風洞で煮詰めたもので、992 GT3の上で効率よくダウンフォースを発生します。圧力係数(Cp)は上面が+0.7を超えないのに対し、下面は−1を下回る——つまり翼を強く働かせているのは下面です。992 GT3は純正でトップマウント(スワンネック)構造のため、その下面を支柱が乱さない。UCWとの相性が良い理由がここにあります。

取付は純正アップライトへのボルトオン。素材は2×2ツイルのプリプレグカーボンで、クリアコート仕上げです。

UCWウイング装着車を正面から見た圧力分布CFD画像
FIG.09正面から見た表面圧力分布。ウイング上面に高圧(暖色)が載っています。見えない下面側では、これを上回る強い負圧が発生しています。
素材 2×2ツイル・プリプレグカーボン(クリアコート) 取付 純正アップライトへボルトオン 翼角 6°〜12°で調整可
05

CFD画像の読み方

本ページやメーカー資料に登場する解析画像は、色の意味が分かると一気に読めるようになります。主な可視化手法をまとめました。

STREAMLINEストリームライン(流線)

空気の通り道を線で表したもの。色は流速を示し、赤系が速く、青系が遅い流れです。FIG.01・05のように、部品が流れをどこへ導いているかを読むのに使います。

CpZ上下方向の圧力分布

車体表面のどこがダウンフォース/リフトを生んでいるかを示します。青=ダウンフォース発生域、赤=リフト発生域。FIG.08の「青く染まった面」が仕事をしている場所です。

CpX前後方向の圧力分布

ドラッグ(抵抗)がどこで発生しているかの可視化。赤が抵抗を生む場所、青は逆に車を前へ押す(推力側の)場所を表します。

Cp圧力係数

大気圧を0とした相対圧力。0より下が低圧(吸われる側)、上が高圧(押される側)です。無次元数なので速度が変わっても比較できます。

LIC / WALL SHEAR表面流れの可視化

LICは表面を流れる「オイルフロー」の再現、ウォールシアは表面摩擦力の分布です。流れの剥離や急変を見つけるのに使われます。

POINTSポイント

空力係数の増減を表す単位で、1ポイント=係数0.001。CdやClの変化量を語るときに使われます。

06

開発の裏付け

実車スキャンから作られた解析モデル

解析は入力が悪ければ結果も悪くなります。Verusは992 GT3の実車を自社で3Dスキャンし、誤差が最も大きい箇所でも1mm未満というCADモデルを製作。スルーダクトやラジエーターダクトまで解析モデルに含め、解析精度を高めています。

3DスキャンデータとCADモデルの照合画像
FIG.10スキャンデータ(青)とCADモデル(グレー)の重ね合わせ。青とグレーがまだらに見えるのは両者の差がごく小さい証拠です。

「直進」を前提にしないCFD

解析には有限体積法CFDのOpenFOAM v2106(SIMPLE法、K-Omega SST乱流モデル)を使用。現実の走行でほぼ起こらない完全な直進気流ではなく、0.5°のヨー角を基本条件とし、複数の車高・ヨーレートで旋回状態も解析しています。ラジエーター等の冷却系(フロントの3基)は多孔質流体としてモデル化されています。

風洞と実走で確認してから製品化

ウイング翼型はCFD設計後に風洞実験で熟成され、開発にはプロドライバーによるサーキット実走テストと過去製品で実証済みの設計手法が投入されています。仕上げは純正並みのフィット感で、車体への恒久的な加工はゼロ。エンジンに手を入れないため、駆動系の純正保証はそのまま残ります。

どのパッケージにするか迷ったら

走行ステージ(街乗り中心か、走行会か、タイムアタックか)と現在の仕様をお知らせいただければ、上記のデータをもとに構成をご提案します。単品からの段階的な導入のご相談も可能です。

適合:ポルシェ 911 GT3(992)。本ページの図版・数値はVerus Engineering発行「Performance of Verus Engineering's Ventus 1&2 Packages」(Porsche 992 GT3/2022年11月19日)より。解説は同資料に基づきRK-ONLINEが構成・翻訳したものです。