ポルシェ 911 GT3 RS(991) VERUS ENGINEERING Ventusエアロ解説

RK-ONLINE / VERUS ENGINEERING FOR PORSCHE 911 GT3 RS (991)

ヴェルスエンジニアリング VENTUS AERO PACKAGE 1–3

Ventusパッケージは、米Verus Engineeringがポルシェ911 GT3 RS(991)のために開発した段階式のエアロキットです。中核となるV1Xリアウイングは、CFDと随伴(アドジョイント)最適化で形状を煮詰めたのち風洞テストで相関を確認したもの。フロントは接地効果を使うスプリッターで受け止め、純正で既に高い空力性能をさらに引き上げます。

このページでは、メーカー発行の技術資料(2022年11月版)に掲載されたデータと解析画像を、日本のユーザー向けに読み解いていきます。

フロントスプリッターの空力効率(L/D)46(カバー)/26(Fディフューザー)
V1Xリアウイングの翼角調整範囲0°〜15°
V1Xリアウイングの翼弦/スパン300mm/1950mm
CADモデルと実車スキャンの誤差0.8mm未満
CFD解析ソルバーOpenFOAM v6
ポルシェ911 GT3 RS(991)の車体まわりの流れをCFDで可視化した断面図
FIG.01車体中心断面での流れの可視化。ルーフ上を加速する流れ(暖色)と、床下からリアへ抜ける流れの全体像が見て取れます。
01

パッケージ構成

VENTUS 1

最小の一歩

純正エアロの完成度を保ちつつ、フロントの接地感を少しだけ足したい方向け。構成はダイブプレーンのみで、ウイングもディフューザーも純正のままです。

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構成部品

  • デュアルダイブプレーン(カナード)
Ventus 1のフロントビュー。ダイブプレーンを青色表示
FIG.03フロントビュー。バンパー両脇の青いパーツがダイブプレーン。緑色の純正ウイングはそのまま使用します。

VENTUS 2

リアを作り替える

リアの荷重を本格的に増やしたい方向け。純正アップライト位置にボルトオンできるV1Xウイングへ交換し、ダイブプレーンで前後のバランスを取ります。

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構成部品

  • デュアルダイブプレーン(カナード)
  • V1Xリアウイング
Ventus 2のフロントビュー。V1Xウイングとダイブプレーンを青色表示
FIG.04Aフロントビュー。純正より大きく高効率なV1Xウイング(青)が載ります。
Ventus 2の床下ビュー。装着部品を青色表示
FIG.04B床下ビュー。床下は純正のまま。ダイブプレーン(前端の青)とウイングのみの構成です。

VENTUS 3

接地効果を解き放つ

競技・タイムアタック志向の方向け。フロントディフューザー付きスプリッターが床下前方に強い負圧を作り、その分ウイング角も立てられる最大構成です。

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構成部品

  • Ventus 2 の全部品
  • フロントスプリッター(ディフューザー開放仕様)
Ventus 3のフロントビュー。スプリッター、ダイブプレーン、V1Xウイングを青色表示
FIG.05Aフロントビュー。バンパー下にスプリッターの前縁(青)が加わります。
Ventus 3の床下ビュー。フロントディフューザー開放仕様のスプリッター
FIG.05B床下ビュー。スプリッター(青)に組み込まれた緑色のトンネルがフロントディフューザー。ここが負圧の発生源になります。

VENTUS 3-1

フラットパネル仕様

Ventus 3と同じ構成で、スプリッターのフロントディフューザーを塞いだ(フラットパネル)仕様。フロントの効きを抑えたバランスで、効率重視のセットアップです。

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構成部品

  • Ventus 2 の全部品
  • フロントスプリッター(ディフューザー閉塞仕様)

※資料では、フラットパネルは純正ウイング併用時、フロントディフューザーはVerusウイング(V1X)併用時に適した仕様とされています。

Ventus 3-1の床下ビュー。フラットパネル仕様のスプリッター
FIG.06床下ビュー。FIG.05Bと見比べると、ディフューザートンネルが塞がれフラットな面(青)になっているのが分かります。
02

構成一覧

部品 VENTUS 1 VENTUS 2 VENTUS 3 VENTUS 3-1
デュアルダイブプレーン(カナード)
V1Xリアウイング(純正アップライト位置)
フロントスプリッター(ディフューザー開放)
フロントスプリッター(ディフューザー閉塞)

各部品は単品でも装着できますが、安全で予測しやすい挙動のまま確実にタイムを削るには、パッケージ単位での導入が最良とメーカーは案内しています。

03

データで見る効果

下のグラフは、Ventus 1〜3それぞれのダウンフォースとドラッグを対気速度ごとに示したものです(V1Xウイングは12°、比較の基準となる純正ウイングは最大の11°設定)。空力の力は速度の2乗に比例して増えるため、曲線は右肩上がりのカーブを描きます。

注目は各パッケージの「ダウンフォース線とドラッグ線の開き」です。Ventus 3(青)は100mph(約161km/h)で650lbs級のダウンフォースに対し、ドラッグはその半分以下。効率の良いダウンフォースこそがラップタイムを削る、というVerusの設計思想がそのまま表れています。

Ventus 2でもダウンフォースは全域でドラッグを大きく上回ります。Ventus 1はダイブプレーンのみの構成のため変化は穏やかで、段階的なステップアップの出発点という位置付けです。

991 GT3 RSのVentusパッケージ別ダウンフォースとドラッグの速度特性グラフ
FIG.02パッケージ別のダウンフォースとドラッグ。横軸は対気速度[mph]、縦軸は力[lbs]。1 lbs≒0.45kg、100mph≒161km/h。V1Xは12°、純正ウイングは最大11°設定。

スプリッター2仕様の使い分け — フロントディフューザーを塞いだカバー仕様は効率(L/D)46と極めて高効率。ディフューザー開放仕様は効率数値こそ26に下がりますが、フロントの絶対ダウンフォースが大幅に増え、その分リアウイングの角度も立てられるため、車両全体ではより大きな荷重を得られます。

スプリッター仕様 効率(L/D) 適した組み合わせ
カバー(フラットパネル) 46 純正ウイング
フロントディフューザー 26 V1Xウイング

スプリッターアセンブリ全体をシミュレーションした際の効率と、資料が示す推奨の組み合わせ。

04

部品ごとの解説

4.1ダイブプレーン(カナード)全パッケージ+

最低地上高を変えずにフロントのダウンフォースを少し足したい、という場合に向く部品です。板そのものが空気を受けて発生する力は限られており(上面が高圧、下面が低圧)、本来の仕事は車体まわりの流れを整えること。意図的に作り出した渦がフェンダー内の空気を抜き、ボディに働くリフトを減らします。

ダイブプレーンが作る渦を可視化したCFD画像
FIG.07ダイブプレーンを通過した流れが渦となり、フェンダー脇から車体上方へ巻き上がっていく様子(ストリームライン)。この渦がフェンダー内の空気を引き抜きます。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 位置決めテンプレート+両面テープ
4.2V1XリアウイングV2/V3/V3-1+

このパッケージの中核です。翼型はCFDと随伴(アドジョイント)最適化で設計され、風洞テストで解析値との相関を確認済み。高い効率を保ったまま大きなダウンフォースを発生します。圧力係数(Cp)は上面が+0.7を超えないのに対し、下面は−1を下回る——仕事の大半は下面(負圧面)が担っています。

特徴的なのは失速特性です。V1Xは意図的に「トレーリングエッジからの緩やかな失速」になるよう設計されており、翼角を攻めた領域でも挙動が急変しにくく、調整の幅が広く取れます。翼角は0〜15°で調整可能。取付は純正アップライト位置へのボルトオンです。

V1Xウイング装着車を正面から見た圧力分布CFD画像
FIG.08正面から見た表面圧力分布。ウイング上面が赤=高圧に染まっています。見えない下面側では−1を下回る強い負圧が発生しています。
V1Xウイング単体の翼角別ダウンフォース・ドラッグ特性グラフ
FIG.09V1Xウイング単体の翼角別データ(0〜14°、スパン1950mm時)。資料の注記によれば、スパンを50mm短縮するごとにダウンフォースは約5.3%、ドラッグは約2.8%減少します。
素材 2×2ツイル・プリプレグカーボン(クリアコート) 取付 純正アップライト位置へボルトオン 翼角 0〜15° 翼弦 300mm
4.3ウイングアップライトV2/V3/V3-1+

V1Xを支えるアップライトは、まず空力を優先して形状が決められています。前縁は丸め、後縁はナイフエッジ状に絞ることで、翼下面の流れを乱さない断面です。そのうえでFEA(構造解析)により重量と強度を最適化。肉抜きポケットで軽量化しながら、V1Xの発生する荷重に耐える強度を確保しており、ポケットが空力を損なわないことも確認されています。

FEA最適化されたウイングアップライトの最終形状
FIG.10アップライトの最終デザイン。三角形状の肉抜きポケットと、下すぼまりのナイフエッジ後縁が確認できます。
設計 空力形状を先行決定→FEAで重量・強度を最適化
4.4フロントスプリッター(2仕様)V3/V3-1+

フロントのダウンフォースを大きく増やすための部品で、路面との間で働く接地効果(グラウンドエフェクト)を利用します。解析はアセンブリ全体で実施。仕様はフラットパネル(カバー)とフロントディフューザーの2種から選べ、前者は純正ウイング、後者はV1Xウイングとの組み合わせが想定されています(効率値は03章の表を参照)。

フロントディフューザーはスプリッター下面の低圧領域を拡大し、フロントの荷重を大きく引き上げます。その分リアウイングの角度も立てられるため、バランスを保ったまま車両全体のダウンフォースを積み増せます。取付はシャシー各部への固定のみで、切削加工は不要。素材は衝撃に強いカーボンポリウィーブです。

スプリッター下面の圧力分布。前端に強い低圧域
FIG.11スプリッター下面の圧力分布。前端の濃紺の帯が資料の言う「ピーク低圧領域」で、ここが車体を路面へ引き下げます。
フロントディフューザーを通る流れを床下から見たCFD画像
FIG.12床下から見た流れ。フロントディフューザーの入口で流速が上がり(黄緑)、床下を通ってリアへ抜けていきます。
素材 カーボンポリウィーブ 取付 シャシー複数点に固定・加工不要 仕様 フラットパネル/フロントディフューザー
05

CFD画像の読み方

本ページやメーカー資料に登場する解析画像は、色の意味が分かると一気に読めるようになります。主な可視化手法をまとめました。

STREAMLINEストリームライン(流線)

空気の通り道を線で表したもの。色は流速を示し、赤系が速く、青系が遅い流れです。FIG.07・12のように、部品が流れをどこへ導いているかを読むのに使います。

CpZ上下方向の圧力分布

車体表面のどこがダウンフォース/リフトを生んでいるかを示します。青=ダウンフォース発生域、赤=リフト発生域。FIG.11の「濃紺の帯」が仕事をしている場所です。

CpX前後方向の圧力分布

ドラッグ(抵抗)がどこで発生しているかの可視化。赤が抵抗を生む場所、青は逆に車を前へ押す(推力側の)場所を表します。

Cp圧力係数

大気圧を0とした相対圧力。0より下が低圧(吸われる側)、上が高圧(押される側)です。無次元数なので速度が変わっても比較できます。

LIC / WALL SHEAR表面流れの可視化

LICは表面を流れる「オイルフロー」の再現、ウォールシアは表面摩擦力の分布です。流れの剥離や急変を見つけるのに使われます。

POINTSポイント

空力係数の増減を表す単位で、1ポイント=係数0.001。CdやClの変化量を語るときに使われます。

06

開発の裏付け

実車スキャンから作られた解析モデル

解析は入力が悪ければ結果も悪くなります。991 GT3 RSのCADモデルは実車スキャンとの照合で誤差が最も大きい箇所でも0.8mm未満に収められ、スルーダクトやラジエーターダクトまで解析モデルに含めて精度を高めています。

3DスキャンデータとCADモデルの照合画像
FIG.13スキャンデータ(青)とCADモデル(グレー)の重ね合わせ。まだらに見えるのは両者の差がごく小さい証拠です。緑はV1Xウイングのモデル。

「直進」を前提にしないCFD

解析には有限体積法CFDのOpenFOAM v6(SIMPLE法、K-Omega SST乱流モデル)を使用。現実の走行でほぼ起こらない完全な直進気流ではなく、0.5°のヨー角を基本条件として解析されています。境界条件は自動車空力の標準的なフルカー設定です。

フルカーCFD解析の可視化。表面圧力とストリームライン
FIG.14フルカー解析の可視化。表面圧力(ウイング上面の赤=高圧)と、フロントから床下・ルーフへ分かれていく流線を重ねて表示しています。

風洞相関と実績ある設計手法

V1Xウイングは風洞テストで解析値との相関を確認しており、「数値への信頼」が開発の軸に据えられています。各部品は過去製品で実証済みの設計手法をベースに、OEMコンポーネントのようなフィット感で仕上げられ、車体への恒久的な加工はありません。エンジンに手を入れないため、純正保証もそのまま残ります。

どのパッケージにするか迷ったら

走行ステージ(街乗り中心か、走行会か、タイムアタックか)と現在の仕様(ウイングを純正のまま使うかなど)をお知らせいただければ、上記のデータをもとに構成をご提案します。単品からの段階的な導入のご相談も可能です。

適合:ポルシェ 911 GT3 RS(991)。本ページの図版・数値はVerus Engineering発行「Performance of Verus Engineering Ventus Packages」(991 Porsche GT3 RS/2022年11月21日)より。解説は同資料に基づきRK-ONLINEが構成・翻訳したものです。