ポルシェ 718ケイマンGT4 VERUS ENGINEERING Ventusエアロ解説

RK-ONLINE / VERUS ENGINEERING FOR PORSCHE 718 CAYMAN GT4

ヴェルスエンジニアリング VENTUS AERO PACKAGE 1–2

Ventusパッケージは、米Verus Engineeringがポルシェ718ケイマンGT4のために開発した2段階のエアロキットです。実車の3Dスキャンから起こしたCFD解析に加え、ウイング翼型は風洞実験で熟成され、プロドライバーによるサーキット実走テストを経て製品化されています。

このページでは、メーカー発行の技術資料(2023年7月版)に掲載されたデータと解析画像を、日本のユーザー向けに読み解いていきます。

UCWウイングの翼角設定(資料掲載レンジ)5°〜12.5°
翼角7.5°超で推奨されるウイングライザー+80mm
CADモデルと実車スキャンの誤差1mm未満
CFD解析ソルバーOpenFOAM v2106
解析の基本ヨー角(実走条件を再現)0.5°
CFD解析中のポルシェ718ケイマンGT4。車体まわりの流線を可視化
FIG.01CFD解析中の718 GT4。青くハイライトされたVentusパーツ(ダイブプレーン、リアウイング)のまわりを流線が通過しています。
01

パッケージ構成

VENTUS 1

純正ウイングのまま整える

純正の完成度を活かしたい方向け。よく出来た純正ウイングとディフューザーはそのままに、ダイブプレーンとディフューザーパネルで前後の働きを底上げします。

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構成部品

  • デュアルダイブプレーン(カナード)
  • リアディフューザーサイドパネル

※ディフューザーサイドパネルは、社外エキゾースト装着で純正マフラー跡に残る空洞を塞ぐパーツです(詳細は04章)。

Ventus 1のフロントビュー。ダイブプレーンを青色表示
FIG.03Aフロントビュー。バンパー両脇の青いパーツがダイブプレーン。外観の変化は最小限です。
Ventus 1の床下ビュー。ダイブプレーンとディフューザーパネルを青色表示
FIG.03B床下ビュー。純正ディフューザーの左右に収まる青いパーツがディフューザーサイドパネルです。

VENTUS 2

前後に翼を持つ

サーキット走行が中心の方向け。フロントにスプリッター、リアに高性能なUCWウイングを追加し、車両全体のダウンフォースを大きく積み増します。ウイングは純正ステーを流用します。

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構成部品

  • Ventus 1 の全部品
  • フロントスプリッター
  • UCWリアウイング
  • ウイングライザー +80mm

※ウイングライザーは翼角を7.5°より立てて使う場合に推奨されるオプションです(詳細は04章)。

Ventus 2のフロントビュー。スプリッターとUCWウイングを青色表示
FIG.04Aフロントビュー。スプリッターとUCWウイングが加わり、前後で荷重を作る構成になります。
Ventus 2の床下ビュー。装着部品を青色表示
FIG.04B床下ビュー。スプリッター下面という新しい負圧面が加わり、ディフューザーパネルと合わせて床下全体で仕事をします。
02

構成一覧

部品 VENTUS 1 VENTUS 2
デュアルダイブプレーン(カナード)
リアディフューザーサイドパネル
フロントスプリッター
UCWリアウイング(純正ステー使用)
ウイングライザー +80mm OPTION

各部品は単品でも装着できますが、前後の空力バランスを崩さないため、メーカーはパッケージ単位での導入を推奨しています。

03

データで見る効果

下のグラフは、純正(Stock)・Ventus 1・Ventus 2それぞれのダウンフォース(上段)とドラッグ(下段)を、対気速度ごとに示したものです。空力の力は速度の2乗に比例して増えるため、曲線は右肩上がりのカーブを描きます。

Ventus 2の赤い帯は、UCWウイングの翼角調整範囲による幅です。下端が翼角5°、上端が12.5°(+80mmライザー使用時)。走るコースや好みに合わせて、この帯の中でリアの荷重を調整できます。

100mph(約161km/h)付近を読むと、Ventus 2のダウンフォースは純正の2倍を大きく超える一方、ドラッグの増加は下段のとおり小幅にとどまります。Ventus 1(青線)は純正ウイングのままでも、全域で純正を上回る荷重を発生します。

718 GT4のVentusパッケージ別ダウンフォースとドラッグの速度特性グラフ
FIG.02仕様別のダウンフォース(上)とドラッグ(下)。横軸は対気速度[mph]、縦軸は力[lbs]。1 lbs≒0.45kg、100mph≒161km/h。
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部品ごとの解説

4.1ダイブプレーン(カナード)V1/V2+

最低地上高を変えずにフロントのダウンフォースを少し足したい、という場合に向く部品です。板そのものが空気を受けて発生する力は限られており(上面が高圧、下面が低圧)、本来の仕事は車体まわりの流れを整えること。意図的に作り出した渦がフェンダー内の空気を抜き、ボディに働くリフトを減らします。

ダイブプレーン周りの気流を可視化したCFD画像
FIG.05ダイブプレーンを通過する気流(ストリームライン)と車体表面の圧力分布。プレーンを通った流れがフェンダー脇へ導かれ、渦となって流れていく様子が読み取れます。
素材 2×2ツイルカーボン(クリアコート仕上げ) 取付 位置決めテンプレート+両面テープ
4.2リアディフューザーサイドパネルV1/V2+

市販車の空気抵抗の多くは、車体後方にできる低圧の渦(ウェイク)が車を後ろへ引っ張る「圧力抵抗」です。ディフューザーは床下の空気を後方へ導きながらこの渦を埋めるため、ダウンフォースを得ながらドラッグも下げられる、ストリートカーにこそ向いた装置です。

718 GT4のディフューザーは純正で良く設計されていますが、その設計には純正マフラーが組み込まれています。社外エキゾーストに交換するとマフラー跡に大きな空洞が残り、ディフューザー上の気流が乱れて本来の効きを失ってしまう。このパネルはその空洞を塞ぎ、純正設計の性能を取り戻すための部品です。

車体後方のウェイク領域を可視化したCFD画像
FIG.06後方から見たウェイク(渦)領域の可視化。床下から出た流れ(緑)と車体後方で渦を巻く低速の流れ(紫)。ディフューザーはこの渦を埋める方向に働きます。
適用 社外エキゾースト装着車 取付 純正ディフューザー部へ装着
4.3フロントスプリッターV2+

フロントのダウンフォースを大きく増やしたい場合の主役です。上面に載る高圧が板を押し下げ、下面はリアウイングと同じく負圧で車体を引き下げる——そして仕事の大半は下面が担います。下面の形状は純正のスプリッターディフューザーへ空気を導くよう設計されており、解析はステーまで含めたアセンブリ全体で行われています。取付はシャシー各部への固定のみで、切削加工は不要です。

素材はモータースポーツグレードのカーボンポリウィーブ。剛性を保ちつつ耐摩耗性に優れ、通常のカーボンが衝撃で割れるような場面でも破損しにくい、スプリッターに最適の複合材です。

床下の圧力分布(CpZ)を示すCFD画像。スプリッター下面が濃い青
FIG.07床下の上下方向圧力分布(CpZ)。前端のスプリッター下面が濃い青=強いダウンフォース発生域になっているのが分かります。
素材 カーボンポリウィーブ 取付 シャシー複数点に固定・加工不要
4.4UCWリアウイングV2+

リアに大きなダウンフォースが欲しい場合の選択肢です。翼型はCFDで設計したのち風洞で煮詰めたもので、718 GT4の上で効率よくダウンフォースを発生します。仕事の大半は下面(負圧面)が担い、この低圧が車体を路面へ引き下げます。取付は純正ウイングステーへのボルトオンです。

翼角と搭載高さについて — 翼角を7.5°より立てる場合は、+80mm以上のウイングライザー(または背の高いマウント)の使用が推奨されています。純正の低いマウント位置のままでは、リアハッチを流れ下りる気流とウイングが干渉し、高翼角時に流れが翼面から剥離してしまうためです。下の比較画像A/Bはどちらも翼角12.5°で、Aが純正搭載高、Bが+80mmライザー装着時です。

UCWウイング装着車を正面から見た圧力分布CFD画像
FIG.08正面から見た表面圧力分布。ウイング上面には高圧(暖色)が載り、フロントバンパー開口部にも強い正圧が確認できます。
純正搭載高・翼角12.5度のウイング断面の流速分布
FIG.09A資料内画像A:純正搭載高で翼角12.5°。ハッチ上の気流との干渉により、翼まわりの流れが乱れやすい状態です。
+80mmライザー装着・翼角12.5度のウイング断面の流速分布
FIG.09B資料内画像B:+80mmライザー装着で同じ翼角12.5°。ウイングが乱れの少ない気流の中で働けます。
素材 2×2ツイル・プリプレグカーボン(クリアコート) 取付 純正ウイングステーへボルトオン オプション +80mmウイングライザー
05

CFD画像の読み方

本ページやメーカー資料に登場する解析画像は、色の意味が分かると一気に読めるようになります。主な可視化手法をまとめました。

STREAMLINEストリームライン(流線)

空気の通り道を線で表したもの。色は流速を示し、赤系が速く、青系が遅い流れです。FIG.05・06のように、部品が流れをどこへ導いているかを読むのに使います。

CpZ上下方向の圧力分布

車体表面のどこがダウンフォース/リフトを生んでいるかを示します。青=ダウンフォース発生域、赤=リフト発生域。FIG.07の「青く染まった面」が仕事をしている場所です。

CpX前後方向の圧力分布

ドラッグ(抵抗)がどこで発生しているかの可視化。赤が抵抗を生む場所、青は逆に車を前へ押す(推力側の)場所を表します。

Cp圧力係数

大気圧を0とした相対圧力。0より下が低圧(吸われる側)、上が高圧(押される側)です。無次元数なので速度が変わっても比較できます。

LIC / WALL SHEAR表面流れの可視化

LICは表面を流れる「オイルフロー」の再現、ウォールシアは表面摩擦力の分布です。流れの剥離や急変を見つけるのに使われます。

POINTSポイント

空力係数の増減を表す単位で、1ポイント=係数0.001。CdやClの変化量を語るときに使われます。

06

開発の裏付け

実車スキャンから作られた解析モデル

解析は入力が悪ければ結果も悪くなります。Verusは718 GT4の実車を自社で3Dスキャンし、誤差が最も大きい箇所でも1mm未満というCADモデルを製作。スルーダクトやラジエーターダクトまで解析モデルに含め、解析精度を高めています。

3DスキャンデータとCADモデルの照合画像
FIG.10スキャンデータ(青)とCADモデル(グレー)の重ね合わせ。青とグレーがまだらに見えるのは両者の差がごく小さい証拠です。

「直進」を前提にしないCFD

解析には有限体積法CFDのOpenFOAM v2106(SIMPLE法、K-Omega SST乱流モデル)を使用。現実の走行でほぼ起こらない完全な直進気流ではなく、0.5°のヨー角を基本条件とし、複数の車高・ヨーレートで旋回状態も解析しています。ラジエーター等の冷却系(フロントの3基)は多孔質流体としてモデル化されています。

風洞と実走で確認してから製品化

ウイング翼型はCFD設計後に風洞実験で熟成され、開発にはプロドライバーによるサーキット実走テストと過去製品で実証済みの設計手法が投入されています。仕上げは純正並みのフィット感で、車体への恒久的な加工はゼロ。エンジンに手を入れないため、駆動系の純正保証はそのまま残ります。

どのパッケージにするか迷ったら

走行ステージ(街乗り中心か、走行会か、タイムアタックか)と現在の仕様(エキゾーストの有無など)をお知らせいただければ、上記のデータをもとに構成をご提案します。単品からの段階的な導入のご相談も可能です。

適合:ポルシェ 718ケイマン GT4。本ページの図版・数値はVerus Engineering発行「Performance of Verus Engineering's Ventus 1 & 2 Packages」(Porsche 718 GT4/2023年7月26日)より。解説は同資料に基づきRK-ONLINEが構成・翻訳したものです。